ヨクナル会計事務所の公認会計士・税理士の永田です。
副業を始めたけれど、収入をどう申告すればいいか悩んでいませんか?
副業収入は、所得税法上の「事業所得」または「雑所得」となりますが、正しく区別することは重要です。
本記事では、事業所得と雑所得の違いを簡単に説明し、あなたの副業収入をどちらに分類すべきかを明確にします。
さっそく見ていきましょう。
結論
詳細は後述しますが、結論は以下の通りです。
事業所得のメリット・デメリット
副業収入は「事業所得」または「雑所得」となりますが、税務上、どちらにメリットががあるのでしょうか?
一般的には、事業所得の方が様々な節税メリットがあります。一方で、記帳が煩雑などのデメリットがあります。
メリット
1.損益通算:
事業所得で生じた赤字は、他の所得(給与所得、不動産所得など)と損益通算できます。これにより、全体の課税所得を減少させることができます。例えば、給与所得が500万円、副業(事業所得の場合)による損失が50万円の場合、損益通算の結果、450万円が総所得金額となるため、赤字が節税につながります。
(国税庁:タックスアンサー 損益通算)
2.青色申告特別控除:
青色申告を行うことで、最大65万円の特別控除が受けることができます。
(国税庁:タックスアンサー 青色申告特別控除)
3.青色事業専従者給与:
生計を一にしている配偶者その他の親族に対する給料は基本的に経費となりませんが、事業所得の場合、一定の要件の下で、当該家族に対する給料を経費として処理することができます。
(白色)事業専従者給与では配偶者は86万円などの控除ができます。一方、青色事業専従者給与は、合理的な金額であれば上限金額がないため、青色事業専従者給与の方が節税効果があります。
(国税庁:タックスアンサー 青色事業専従者給与と事業専従者控除)
4.少額減価償却資産の特例
通常10万円以上の固定資産は、減価償却を通じて経費計上となります。青色申告を行っている場合は、30万円未満の固定資産は、事業の用に供したときの経費として計上することができます(上限300万円)。
(国税庁:タックスアンサー 減価償却のあらまし)
5.純損失の繰越しと繰戻し
事業所得などに損失(赤字)の金額がある場合で、損益通算の規定を適用してもなお控除しきれない部分の金額(純損失の金額)が生じたときには、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して、各年分の所得金額から控除することができます。
また、前年も青色申告をしている場合は、純損失の繰越しに代えて、その損失額を生じた年の前年に繰り戻して、前年分の所得税の還付を受けることもできます。
(国税庁:タックスアンサー 青色申告制度)
デメリット
1.記帳が煩雑
事業所得の場合、法定帳簿の作成等が必要となります。
・白色申告
収入金額や必要経費を記載すべき帳簿(法定帳簿)を備え付けて、収入金額や必要経費に関する事項を記帳する必要があります。
・青色申告
複式簿記による記帳が必要となり、仕訳帳、現金出納帳、売掛帳等の帳簿や損益計算書や、貸借対照表等の決算 関係書類等を作成する必要があります。
雑所得の場合でも、収入・経費の計算・記帳と考えられますが、事業所得の方が記帳が煩雑といえます。
(税務署:帳簿の記帳のしかた -事業所得者用- )
副業収入の分類 事業所得 vs 雑所得
副業収入に関する税務リスク
上記の通り、事業所得は雑所得に比べた節税メリットが大きいことから、副業収入を事業所得とすることができれば節税メリットが大きくなります。しかし、社会通念上、事業と称する程度で行っていないにもかかわらず事業所得とすることは、過度な節税となり、税務リスクが大きくなります。また、過去に事業所得か雑所得かの判断は、裁判となっています。
このことから、副業収入を正しく「事業所得」「雑所得」に分類することは、税務上重要となります。
副業収入の分類方法
では、どのように副業収入を「事業所得」「雑所得」に分類すべきでしょうか。
分類について、2022年10月7日に、『「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)』(国税庁)が公表され、雑所得の範囲について明確化が図られています。
具体的には、以下の表に従って、副業収入を「事業所得」「雑所得」に分類することになると考えられます。
(国税庁:雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説35-2)
1.記帳・帳簿書類の保存がある場合
記帳・帳簿書類の保存がある場合、収入金額にかかわらず、概ね事業所得と判断されます。
事業所得・雑所得の区分は、判例に基づき、社会通念で判定することが原則ですが、その所得に係る取引を帳簿書類に記録し、かつ、記録した帳簿書類を保存している場合には、その所得を得る活動について、一般的に、営利性、継続性、企画遂行性を有し、社会通念での判定において、事業所得に区分される場合が多い、という考えによるものです。
しかし、帳簿書類を保存している場合であっても、次のような場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断することとされています。次の場合には、社会通念から、事業ではない可能性があると考えられるためです。
① その所得の収入金額が僅少と認められる場合
例:その所得の収入金額が、例年、300 万円以下で主たる収入に対する割合が 10%未満の場合
※「例年」とは、概ね3年程度の期間をいいます。
② その所得を得る活動に営利性が認められない場合
その所得が例年赤字で、かつ、赤字を解消するための取組を実施していない場合
※「赤字を解消するための取組を実施していない」とは、収入を増加させる、あるいは所得を黒字にするための営業活動等を実施していない場合をいいます。
2.記帳・帳簿書類の保存がない場合
帳簿に記録していない場合や記録していても保存していない場合には、一般的に、営利性、継続性、企画遂行性を有しているとは認め難く、また、事業所得者に義務付けられた記帳や帳簿書類の保存が行われていない点を考慮すると、社会通念での判定において、原則として、事業所得に区分されない、と考えるとされています。
しかし、収入金額 300 万円を超えるような規模で行っている場合には、帳簿書類の保存がない事実のみで、所得区分を判定せず、事業所得と認められる事実がある場合には、事業所得と取り扱うこととなっています。
まとめ
副業は、今日において徐々に認められる働き方となってきたと思います。副業による収入は、様々な経験や資産形成に貢献する良い取り組みだと思います。
税務上は、その副業収入を事業所得とする場合には、節税メリットが大きいことから、事業所得・雑所得の区分について、基本通達が改正されて明確化されています。サラリーマンが副業する場合など、副業収入を事業所得とすることができるか、慎重に判断することが必要だと思われます。